開会挨拶で長谷川梅太郎会長は、当協会が平成4年4月に法人資格を得てから7年を迎え、この間、擁壁の安全性確保のた めに技術向上の目的を持って、平成6年度より始められた技術講習会もここに第5回目を開催出来ることは、皆様方のご理解とご協力に寄るものと感謝の意を述 べられました。
続いて開沼事務局長の進行で、5名の講師の方々の講演が行われました。講演の要旨を紙面の許す限りに紹介いたします。
<地盤の変形係数の評価法について>
日本大学理工学部
建築学料
助教授 安達俊夫
1.地堂の変形係数の評価法の問題点
(1)地盤の変形係数は非常に小さなひずみレベルから非線形性を示す。
(2)サンプリングにより、土試料の性質が変化し、乱れを生ずる。
(3)自然地盤の多様性によるばらつきが多い。
2.問題を解決するためにどのような工夫と技術が発展してきたか。
(1)非線形性を求める計測技術の開発
微小のひずみレベルには超音波パルス試験、共振法等の動的試験、中~大ひずみレベルでは繰返し三軸試験、中空ねじり試験等の静的試験が行われて来た。最 近では技術開発が進み、一つの装置で連続し一貫して測定出来るようになる。三軸試験を具体例とすると、三軸室外にあった変位計や加重計が、1980年代に 室内に入った非接触変位計(GS)に改良され、更に1990年以降に、それ迄出ていたベデイングエラー問題を解決した高性能な局所軸ひずみ計(LDT)が 出現し、広いひずみが10-6から10 ̄2のオーダーで計れるようになった。
(2)新しいサンプリングの技術開発
一例として原位置凍結サンプリングがある。
(3)ばらつきの要因分析の進歩
地盤はばらつきが多いことを前提に要因因子についての調査・研究がなされてきている。
3.現状では土の変形係数についてどの程 度判明してきたか。
(1)「動的弾性係数」と「静的弾性係数」の違いは、変形係数のひずみ依存性を考慮しない見かけ上のもので、「動的」、「静的」の試験方法によるものでは なく、「動的試験」と「微小ひずみレベルの静的試験」から求めた変形係数は基本的に一致する。双方を統一的に評価できる。地震応答解析のための土の動的変 形特性を沈下計算等の静的問題の変形係数のひずみ依存性に利用するには土のポアソン比が関係する。ポアソン比は排水状態(0.2~0.35)か非排水状態 (0.5)かを念頭におく必要はあるが、ひずみ依存性がほとんどなく、一定値が使える。
(2)サンプリングによる乱れの影響は、開発された凍結サンプリング(FS)法、従来のチューブサンプリング(TS)法のいずれからも、非線形性においては変わらない。
(3)砂の変形特性では、拘束庄は影響を与えるが、間隙比では影響がない。
(4)粘土の変形特性では、拘束庄の影響はあまり大きくないが、塑性指数の影響を受ける。
(5)礫の変形特性では、拘束庄の影響を受ける、また粒子の形が影響し、丸いものは角ばったものよりゆるやかである。
(6)粘土、砂、礫の変形特性の比較をすると粒径が大きい程非線形性が強いと言える。
以上、いろいろな研究がされているが、いずれにせよばらつきのあるものだということを十分に考慮して、設計に当っていただきたい。
<宅地防災行政について>
建設省建設経済局
宅地課民間宅地指導室
課長補佐 神野忠広
<建築基準法の改正点について>
建設省住宅局
建築指導課
課長補佐 北村重治
平成10年6月に建築基準法の改正が行われたが、その要点を示すと次の通りとなる。
1.建築確認・検査の民間開放
特定行政庁の建築主事が行ってきた確認・検査業務について、新たに必要な審査能力を備える公正中立な民間機閑(指定確認検査機関)も行うことが出来る。(本年5月1日施行)
2.建築基準の性能規定化等基準体系の見直し
一定の性能さえ満たせば多様な材料、設備、構造方法を採用できる規制方式(性能規定)を導入する。併せて建築物単体の規制項目の見直しを行う。(来年6月11日施行予定)
3.土地の有効利用に資する建築規制手法の導入
土地の集約的利用による合理的な建築計画を可能にし、土地の有効利用に資するため、隣接建築物との設計調整のもと、複数建築物について一体的に規制を適用する特例制度である、連担建築物設計制度(仮称)を創設する。
4.中間検査の導入
特定行政庁は、必要に応じ一定の構造、用途等の建築物について、中間検査を受けるべき工程を指定する。指定された建築物は建築主事または指定確認検査機関の中間検査を受けなれば工事を続行出来ない。
5.確認検査等に関する図書の閲覧
特定行政庁による建築物の台帳整備を義務化する。また、建築物の計画概要及び検査実施状況等についても図書の閲覧が出来る。
最後に「建築基準法施行令改正案の概要」を載せておいたので参考にしていただきたい。
<建築物の構造性の評価について>
建設省建築研究所
第4研究部施工技術
研究室長 上之薗隆志
1.はじめに
消費者のより高度な安全性、居住性、機能性、財産の保全や適切なコスト等の建築構造への要望に応えて、建築構造技術の進歩も著しい。しかし現在の一般的 な構造設計法は許容応力度法を基本としており、構造性能を明確に示す設計体系になっていない。そこで建築構造技術をとりまく経済の世界に、市場原理が機能 するような構造体系を確立することを目的に、総合技術開発プロジェクト「新建築構造体系の開発」(新構造総プロ)が発足した。その研究課題と内容の概略を 紹介する。
2.研究内容
(1)性能を基盤とした建築構造設計体系
①性能を明確にした設計を行う。
②建築構造に関する情報が提供される。
③建築構造の性能が価値判断の材料になる。
(2)建築構造に要求される性能の考え方
①建築主や使用者等の意向に基づく社会の
要求を反映して定まる。
②目標性能に係わる基本的な考え方を整理
し、水準設定の枠組づくりを行う。
(3)性能評価の枠組
①建築物の目標とする構造性能の評価方法
の原則を示す「構造性能評価指針(案)」を作成。
②建築構造に要求する基本構造性能として
「安全性」、「修復性」、「使用性」を設定する。
③性能評価項目として「構造骨組」「建築部
材」「設備機器」「什器」「地盤」を対象とする。
(4)性能を基盤とした体系のための新たな社会機構
①社会機構に期待される機能・役割を「要求
(ニーズ・期待)」の明確化支援、「目標性能」
への変換の信頼性提供等4項目に設定した。
②社会機構に期待される機能・役割を実現
するため必要なシステム要素を、7項目の
具体的機能別システムに整理・設定した。
3.構造性能評価
性能評価の原則を示す「構造性能評価指針
(案)」は8章から成り、総則に構造性能評価の
流れが示され、2章:目標構造性能、3章:
限界状態、4章:荷重または外力の大きさ、
5章:応答値の算定、6章:限界値の設定、
7章:限界値と応答値の比較評価の方法、
8章:性能の表示の手順で評価される。
4.まとめ
新構造体系で考えられる性能を基盤とした
建築構造設計により、建築主の私的要求と社
会的要求を考慮して、明示的方法で目標性能
と水準設定から設計が開始される。また設計
終了後に性能を表示、公開することで建築構
造の性能を、建築物の価値判断材料として利
用することが可能である。
<宅地擁壁の補修補強について>
㈱千代田コンサルタント
技術顧問 山崎慶-