東京理科大学工学部
教授 岸田 英明
§宅地造成等規制法について
昭和33年狩野川台風による被害が出て、宅地造成の安全性が厳しく言われ始め、昭和36年に今の宅地造成等規制法が出来た。
第1条に崖くずれ、土砂の流出を生ずる恐れの著しい市街地等の宅地造成に関する工事等について、災害防止に必要な規制を行うことにより国民の生命や財産を守ることを目的とするとなっており、災害を防止することが大切な点であり、厳し過ぎる必要はない。
第5条の第1項に擁壁の定義があり、第2項には土質試験等で地盤の安定計算の結果、擁壁設置が不必要と確かめられた場合に前項の規定は適用しないと定め られ、必ず擁壁を使うのではなく、自然斜面を残し、環境を大切にする事も出来て現在のニーズにもマッチする。
第6条は擁壁の構造、第7条は構造計算について、第8条には練り積み造に関する悪評高い別表第4があり、必要以上にごつい擁壁が要求されている。
その後、緩和された考えが導入され、第15条では構造材料、構造方法が第6条~第10条の規定によらない擁壁で、建設大臣が規定によった擁壁と同等以上 の効力を認めたものは良いとした。同等以上という判断は難しいが、基本は学問にのっとったものとしたい。
§製造工場実地調査について
宅協では大臣認定を委託されて、調査、認定、評定を行っている。製造工場実地調査は平成9年度前期52件、後期53件が終了しており、ほとんど合格して いる(「ようへき」No.18参照)。このような調査を他人に頼らずお互いの間でレベルを保つことは良いことと思う。
現在、認定や評定がどのように行われているかについては「ようへき」No.10にフロー図が載っている。工場審査は認定取得者とそれ以外の場合とに分け て行い、具体的には「ようへき」No.18にも載っているが書類審査、寸法検査、IQ検査、強度かぶり検査等に加え、清掃状態、排水設備等のチェックも 行っている。
§品質保証・管理に対する日本と欧米との違い 双方の社会習慣の違いから日本は根回し社会でマニュアルが不要であるが、欧米では契約社会でマニュアル主義 である。日本では供給者の自主性で購入者に保証するが、欧米では購入者の立場で供給に要請する。保証の考え方でも日本は自主性尊重、顧客要求の先取り、品 質改善基盤、審査による保証体制の評価によるのに対し、欧米ではISO9000シリーズの考え方で、文書による契約、契約内容の重視、検査基盤、監査によ る保証体制の評価となり違っている。ISO9000シリーズ規格の選択と使い方では、外部品質保証に関するISO9001~9003と内部品質管理に対す るISO9004とがあり、次第に導入されてきている。
§協会認定擁璧の将来性について
現実的には工場実地調査が施行令第15条に基づき、宅協が建設省、建設大臣より委託されて行っている。しかし世の中の規制緩和の流れから、一つの協会に 委託するという制度は無くなっていくのではないか。その時に協会としての特徴をどう持たせるか、品質保証をどう考えていくか、ISO9000シリーズ等を 勉強していくことが大切だと思う。
日本建築センターシステム審査部より「建築業界の品質保証のあり方について」というパンフレットが出版されている。その最後の頁にISO式考えを進める と円滑な取引が出来、国際的に通用する尺度で顧客が企業の保証管理体制を評価できる。また現在の無駄がわかり、企業の合理化に繋がり、電子メイルでのやり とり、契約社会的やり方で業務内容が明確になる等々と書かれている。宅協でも皆さんでハイ・タッチウォールを造る時にISO式に行ったらどうなるか等の勉 強会をされ、将来構想を立てられることを期待する。
建設省建設経済局宅地課民間宅地指導室
課長補佐 岡本 敦
住生活に対し安全性・景観・環境等の重視、高齢化等への対応等ニーズが高度化・多様化しつつあり、宅地の安全性確保も最も基本的課題の1つであることが大震災でも再認識された。建設省では安全性の確保を図ってきたが、さらに次の取り組み・検討を行っている。
1)阪神・淡路大震災における宅地被害概要と対策
被害は六甲山麓部丘陵地中心に約5000宅地に発生し、平成7年1月22~28日、2月6~16日に延べ約900名の協力を得て被災宅地の集中的調査が 行われた。結果を踏まえて応急対策し、災害復興宅地融資制度等も活用して復旧を行った。平成7年8月25日付けで「宅地擁壁の復旧技術マニュアル」を策定 し、各所へ通知した。
2)被災宅地危険度判定制度の整備
従来の地方公共団体職員だけでなく、官民問わず知識、技術のある被災宅地危険度判定士を認定登録する。被災宅地危険度判定連絡協議会が平成9年5月に発足し、判定制度の円滑な実施・運用を図ることとした。
3)宅地防災マニュアルの改定
宅地防災技術委員会審議を経て、平成10年2月3日付け全面的に改定した。主な改定点は①耐震対策の新たな規定、②耐震設計法に加え、地盤液状化への新 たな規定、③オンサイト貯留施設、浸透型施設の規定、④浸透型施設、建設副産物の抑制・再利用・再資源化の推進、工事騒音・振動対策の必要性等の記述であ る。
4)調節(整)池の多目的利用及び浸透施設の設置促進
昭和61年4月に指針(案)を策定し多目的利用の促進を図ってきた。地下調整池の技術指針策定が検討される。
5)宅地造成工事規制区域の指定
区域指定基準を明確化した指定要領を平成9年1月9日付け作成、区域指定の適切な見直しが期待される。
〔現職:建設省河川局砂防部砂防課課長補佐〕
建築省住宅局建築指導課
課長補佐 井上 勝徳
建設省では平成9年12月に建築基準法の一部を改正する法律案を作成、今年3月に国会提出予定である。
§改正経緯
1)阪袖・淡路大震災で6,425名の死者のうち建築物の倒壊による圧死が8割を占めた。倒壊建築物は古いものに多く、新しいものでは違反建築物に多かった。
2)新技術、新製品に規制が対応出来ず、15年前位より海外摩擦が起こり交渉ごとが多くなっている。 このような事から、規制をきちんと守らせること、性能規定も根本的に見直すことが必要とされてきた。
§改正の柱
1)建築確認・検査の民間開放
これまで建築確認・検査は地方公共団体の建築主事のみが行ってきたが、新たに必要な審査能力を備える公正中立な指定確認機関(仮称)が行えるようにする。
2)建築基準の性能規定化等建築基準体系の見直し 従来の特定工法、材料、寸法等の仕様による規制から、一定性能を満たす多様な材料、設備、構造方法も採用可能な規制として、海外資材導入等にも対応する。
3)性能規定化に対応した新たな手続制度の整備 現行制度は建築物確認を個別審査しているが、特定の構造方法等が予め建設大臣認定されている場合には、個別審査を不必要とする適合認定制度を導入する。
4)土地有効利用に資する合理的な建築物規制手法導入 一一建築物一敷地原則の規制から、隣接建築物との設計調整で複数敷地に一体的規制する特別制度を可能にする。
5)規制の実効性の確保
中間検査制度を導入し、建築主は建築確認後、計画通り行うよう建築工程ごとの事項について中間検査を受ける。設計変更時の建築確認手続を整備する。
建設省建築研究所第四研究部
施工管理研究宮 二木 幹夫
宅地防災マニュアルが平成9年に改定され、宅地地盤の耐震性について擁壁、盛土、斜面の耐震設計、液状化等を取り上げる。
地震の種類として供用期間中1~2回遭遇する可能性のある震度Ⅴ程度の中地震動、供用期間中に遭遇するかも知れない震度Ⅵ、Ⅶの大地震動となり、設計基 準震度は中地震時0.2、大地震時25である。耐震設計の基本的な考え方は、常時に有害なクリープ変形等が生じない、中地震時には擁壁に有害な残留変型が 生じず、損傷しない、大地震時に擁壁が転倒、滑動、破壊しない性能が要求される。
§鉄筋コンクリート造等擁璧設計の留意点
1)土圧等によって擁壁が破壊されないこと
2)土圧等によって擁壁が転倒しないこと
3)土圧等によって擁壁の基礎がすべらないこと
4)土圧等によって擁壁が沈下しないこと
§鉄筋コンクリート造等擁璧に作用する土圧等の考え方
今回のマニュアルでは土圧の作用面についていろいろな実験結果を踏まえて加えられている。
1)擁壁に作用する土圧は擁壁脊面の地盤状況にあわせて算出し、①盛土部に設置される擁壁は、裏込め地盤が均一であるとする。②切土部に設置する時は切土 面の位置及び勾配、のり面の粗度、地下水、湧水の状況等に応じて、適切な土圧算定方法を検討、③地震時土圧を試行くさび法によって算定する場合は、土くさ びに水平方向の地震時慣性カを作用させる方法、土圧公式を用いる場合は岡部・物部式を標準とする。
設計に用いる地震時荷重は、地震時土圧による荷重と擁壁の自重に起因する地震時慣性カに常時の土圧を加えた荷重のうち大きい方とする。
§改良地盤の設計および品質管理指針
指針作成の背景は地盤改良の普及とその必要性にあり、基準法第19条2項地盤改良の必要性、施行令38条の良好な地盤という形で位置づけられている。特徴としては性能評価型への指向、施工管理との連携があげられる。
改良地盤の要求項目として、1)常時の荷重に対して構造物に有害な影響を与える変形をしない、2)中地震動時には過大に変形し、構造物に有害な残留変形 を生じない、3)大地震動時には改良体の圧縮破壊あるいは周辺地盤を含めた改良地盤の全体的な破壊を生じ、構造物に転倒などの破壊を生じさせない。
設計上の留意点として、1)地盤改良を適用できる条件(残留強度)、2)液状化地盤(簡単なものは対応可、別途検討必要なもの)、3)斜面地など地盤変 状が危惧される地盤(全体としての安定等別途検討)、4)改良地盤に作用する外力(上部構造から必要に応じ地盤変位の影響を考える)、5)基礎と改良地盤 との接合(敷コンクリート、敷砂利等)があげられている。
地盤の液状化に関しては、液状化地盤の判定、対策工法の検討について述べられている。また自然斜面等への配慮・治水・排水対策についても加えられている。
建設省土木研究所材料施工部
施工研究室主任研究員 青山 憲明
道路土工指針は日本道路協会より昭和31年に刊行され、数回の改訂を経て今回、「擁壁工指針」が平成10年に改訂、発行される予 定である。今回の改訂では「擁壁工指針」、「カルバート工指針」、「仮設構造物工指針」の3分冊化され、新たな章、節も加わり、全体で従来の80頁から 200頁程度のボリュームとなっている。
§改訂の概要
改訓こあたって、1)新技術、進工法の普及への対応、2)省力化、コスト縮減のニーズヘの対応、3)特殊な擁壁への対応、4)耐震設計への対応、5)関 連設計への対応、6)維持管理の内容充実、7)SI単位導入への対応が考慮されたことがポイントである。
§主な改訂点一第1章総論より-
1)新技術・新工法による土留め構造物が新たに追加されることで、補強土壁やプレキャストコンクリートを用いた擁壁を分類し、定義づけた。
2)従来から道路橋示方書の橋台と擁壁の設計法が異なり、現場での混乱の原因となっていたため、支持地盤の設計定数中心に記述を見直し、整合を図った。
3)現場での省力化からプレキャスト擁壁が多く使われている実情を踏まえ、安定計算に用いる底面の摩擦係数を、φB=2/3φからφB=φ(tanφB≦0.6)とした。[鈍:基礎底面と地盤の間の摩擦角、φ:支持地盤のせん断抵抗角]
4)兵庫県南部地震で総じて擁壁の被害事例は少なかったので、耐震設計方法の見直しは行わず、適用上の注意記述の充実を図った。ただし、道路盛土および道 路橋の橋台との整合から、重要度と復旧の難易度に応じて、中・大規模地震を想定した設計水準を設定した。
§主な改正点一第2章~第5章より一
1)第2章コンクリート擁壁では大型ブロック積擁壁の定義と設計、混合擁壁計画・設計の留意点、片持ばり式擁壁の労働力ミニマムの考え方、各種u型擁壁紹 介と静止土圧算定手法、コンクリート二次製品利用の留意点、直接基礎の統一的設計の考え方等が追加された。
2)第3章補強土擁壁では従来の補強土擁壁工法としてのテールアルメ工法、多数アンカー式擁壁工法に加え、ジオテキスタイル補強土壁工法等の新工法を追加した。
3)第4章その他の特殊な擁壁では山留め式擁壁、深礎杭擁壁、連続繊維補強土擁壁の設計・施工上の留意点、適用マニュアル、また軽量材等を用いた土庄軽減工法の設計の考え方、施工上の留意点を新たに記述した。
4)第5章維持管理では道路防災総点検を新たに実施することになったため、擁壁工の維持管理について、道路防災総点検台帳と防災カルテの作成を前提として体系化し、記述の充実が図られた。
-以上の記事は講習会当日の資料、録音テープ をもとに、広報委員会で編集いたしました。-