建設省土木研究所材料施工部
施工研究室研究員 宮武裕昭
1.指針改訂の背景現行指針は10年前(S61~62)に改訂されたもので、この間の建設事業全般にわたる種々の変化に対応すべく、6指針1要綱の中、の り面工・斜面安定工指針と擁壁・カルバート・仮説構造物工指針(今回3指針に分冊)の改訂作業が進んでおり、近々改訂版が完成する。
改訂の背景として①複雑化多様化する社会状況、ニーズの変化に対応する内容の高度化、②新技術・新材料・新工法の普及への対応、③新たな知見一特に自然災害に対する経験の取り入れが重要なポイントである。
2.擁壁工指針改訂の概要
第1章「総論」擁壁の定義と摘要、計画調査、設計法、荷重、材料について現在の擁壁に関するものに絞り込まれた。計画調査ではその重要性が再確認され細かい記述となった。設計法は基本的には変わっていない。荷重、材料はいずれも非常に多様化されている。
第2章「コンクリート擁壁」擁壁の設計・施工方法について記述され、ニーズ、状況を把握してとり入れ
られた①のグループに当たる。ブロック積擁壁では実績を積んだものが必然的に入り、ニーズが高い割に実績、安全率ともバラつきのある混合擁壁については計画・設計への留意点を記述し、消極的な表現とした。
第3章「補強土擁壁」垂直に近い壁面や軟弱地盤や山岳部に有効なため今回大きく扱われ、軽量材による土圧軽減工法とともに③のグループとして積極的に使用を進める新たな工法として記述を大幅に増加した。
第4章「その他の特殊な擁壁」山留め式擁壁や繊維補強土擁壁等、特殊な条件の下で有効な②のグループとして、設計、施工時の留意点や考え方を記述した。
3.全般的記述の見直し
1)他の関連する示方書・指針類との整合
示方書と指針とでは地盤の支持力の検討方法に違いがあり問題となっていたが、今回擁壁の根入れ深さを50cmと規制したり、支持力の表をいじったことで 双方の方法での差がほとんどなくなった。擁壁の滑動に関する安全度の算定の場合に現場打ちとプレキャストではプレキャストに条件が厳しくなっていたために これを緩和して利用しやすくした。
2)地震に関する設計の見直し
今回の地震では擁壁の被害は少なかった。理由は①大きな加速度を起こした所に大きな擁壁がなかった。②山岳地帯の大きな擁壁では支持地盤が良かった。③土構造物はねばり強いという特性があった。
被害は次の特定の形式、条件に集中していた。①石積(空積)擁壁、②重力式擁壁(自重抵抗型)、③地盤変動による。この三点についての対策を考えること が指針改訂への基本的な姿勢であった。また土木学会の提言や盛土、道路橋台との耐震性レベル整合を図るため、設計水平震度の検討を行った。
3)道路防災点検に伴う維持管理への対応
道路防災点検が変わった。点検は年に数回全国で行い、道路の個々の構造物を三つのランクに分ける。①特に対策不要、②防災カルテによる対応、③緊急に対 策が必要。①は日常の維持管理で②③は防災カルテを作る。防災カルテは規模、着目点を規定し、定量的継続的観測が行われなければならない。この方針を道路 局で実施しようとしているのに伴い、擁壁工の維持管理の記述が見直された。
現在最終原稿が出来つつあり、今夏には改訂版が完成し、その後講習会が開かれる予定になっている。